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夢見る夢夫君。
2008-07-11
夢見るスグル君。
人は彼のことを陰でそう呼んでいる。
ルックスは申し分なし、
高学歴で、そこそこの
企業で働いている。なのに35才でいまだ独身。
その理由を彼以外はみんな知っている。
彼は、自分の妻となる人と、
運命的な出会いがあると信じ込んでいる。
だから、お見合い、
人の紹介はいっさい受け付けない。
ドラマチックな瞬間を
今か今かと待ち望む、夢見る夢夫君なのだ。
ある日の午後、昼食を終えたスグル君は、
オフィス街の交差点で信号待ちをしていた。
ふと前を見ると、ロングヘアの女性がそこに
いる。後ろからだとよくわからないのだが、
どうやら携帯でメールを打っているらしい。
なかなか素敵な人だなと、スグル君はつぶやいた。
やがて信号が青になる。事件が起こったのはその時だ。
女性は、携帯をバッグにしまおうとしたのだが、
その意図とは逆に、地面に落下してしまったのだ。
アッと思ったスグル君は、すばやく
そこにかけより携帯を拾った。そして
それを渡そうとしたのだが、顔を上げるともう
彼女の姿はない。信号が変わった瞬間、
猛ダッシュで走り出したのだった。
離れていくその姿を見つけて、スグル君は
あわてて追走した。
しかし、彼女は信じられないほどのスピードで、
なかなか追いつくことができない。
(おいおい、なんでそんなに早いんだよ、元陸上部かよ)
そんなことを思いながら、必死で後を追いかけた。
そして、いつもの妄想癖がはじまったのだった。
(待てよ。これはひょっとすると神様が仕組んだ出会い
なのかもしれない。彼女こそ運命の人なのでは)
ハーハーと息を切らしながらも、携帯を渡した時の
ことを思い浮かべる。
(「えっ、追いかけてきてくれたんですか、私のために」)
(「人として、当たり前のことですから」)
(「ありがとう!お礼にお茶でも」)
(「いえいえ、お気になさらないでください」)
(「せめて、お名前だけでも」)
(「名乗るようなものでは、ないので」)
(「お願いします、名刺でもかまいませんので、
いただけませんか」)
(「そこまで、おっしゃるのなら」と名刺を差し出す)
これは、なんとしても追いつかなきゃ。スグル君は、
まさに火事場のなんとか力という勢いで走り続けた。
そして、幸運が訪れた。彼女の先にある
大通りの信号が赤に変わったのだ。
どんどん近づく彼女の姿。
運命の時が間近に迫る。
ハーハー、ゼイゼイ。
「携帯、落としましたよ」。
「えっ、ありがとう」。
その声は、予想とはまったく違う
低音で、
口には
ヒゲをたくわえていた。
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