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ある「少年」の物語。
2008-06-05
まだ年号が昭和だった頃、大阪のある街に 少年Hは住んでいました。
少年H、といっても彼は少年ではありません。
見かけが少年。小柄で、ひとなつっこく
少年のような顔をしていたのです。
当時、彼は大学に入学したばかり。
お酒は二十歳になるまで
飲めないのですが、友達たちは
しょっちゅう飲みに出かけていました。
そんなとき、いつも彼だけが仲間はずれ。
それは、どうみても少年に見えるので、
「身分証明書を見せなさい」と、
お店の人に言われるからです。
そんな少年Hが、晴れて成人を迎えたとき、
友達Tと一緒にディスコへ出かけました。
席につくやいなや、隣にいる女性が
話しかけてきました。
「こんなとこ来たら、あかんやん」
「君、年、いくつなん?」。
少年Hは待ってましたと言う気分だったのでしょう。
20歳だと伝えようとして、
指を二本差し出し、ピースと言ったのです。
すると女性は「ええっ!、12才やの〜?」
友達Tは、もう大笑い。
少年Hは、すっかりふさぎこんでしまいました。
少年H、彼は見かけとともに、心も少年でした。
純粋で正義感が強い。おそれるものを
知らなかったのです。
友達Tがヤンキーたちにからまれた時、
少年Hは助けにいきました。
「おまえら、なにしとんねん、俺が相手したる!」。
ヤンキーたちは、驚きました。
「なんなんだ?この子供」。
まさに、そういう気分だったのでしょう。
最初はまったく相手にしていなかったのですが、
そのうち腹を立て、少年Hをボコボコにして
去っていきました。
「ごめん、怖くて見てるだけやった」と友達のT。
少年Hは、腫れ上がった顔を
おさえながら「誰でも、そうやで」
「でも、無事で良かったな」と微笑んだのでした。
やがて大学を卒業した少年Hは、
とある会社に就職しました。
「お客様のために、がんばんねん」
「喜んでもらえるサラリーマンになるで」。
そうつぶやく彼の横顔は、まだまだ少年でした。
それから、すっかり少年Hは友達たちの前に姿を
現さなくなりました。
おそらく仕事で精一杯だったのでしょう。
時が流れて、少年Hの記憶が消えかけた頃、友達Tは
偶然、街で少年Hと出会いました。
驚いたことに、まだまだ少年の面影が残っている。
「よう久しぶり、変わってへんな」
「ところで仕事の方はどう?」と話しかけました。
すると少年Hは、「もうかってるで〜、世の中、金や、
金のためやったら、俺はなんでもするで」と高笑い。
見かけは少年Hでも、心の中は、すっかりおとなへと
変わっていたのでした。
年を重ねるにつれ、いろんなものを手にする。
しかし、それと引き換えにいろんなものを失っていく。
友達Tは、とてもさみしい気分になりました。
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